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仙台高等裁判所 昭和35年(ネ)53号 判決 1960年12月27日

控訴人 被告 工藤ふみゑ

訴訟代理人 中村慶七

被控訴人 原告 藤谷彦蔵

訴訟代理人 成田篤郎 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二番とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の関係は、つぎに記載するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

控訴代理人は、

一、かりに、被控訴人と原審の相被告坂下幹子との間に被控訴人主張のような貸金の約定がされ、控訴人がこれに連帯保証をしたとしても、被控訴人は、二ケ月分の利息金一六、〇〇〇円を天引して貸与したので、右天引額は利息制限法第二条により、受領額である金一八四、〇〇〇円を元本とし、同法第一条所定の年一割八分により計算した金五、五二〇円を超過するから、超過分一〇、四八〇円は元本の支払に充てたものとみなすべきである。また右坂下から支払を受けたと主張する昭和三三年一二月一〇日までの利息損害金は、利息制限法所定の利率による額を超えるので、右超過分はすべて元本に充当されるべきものである。

二、右貸金については、遅延損害金について、特に約定はなかつたから、その率は、利息についての約定利率月四分を利息についての利息制限法所定の制限利率年一割八分に引き直した率によるべきである。

と述べ、証拠として、当審証人坂下幹子の証言および当番の控訴人本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の二、三の成立を認め、甲第一号証の一中控訴人の署名押印部分の成立を否認し、その他の部分の成立は不知と述べ、

被控訴代理人は、控訴代理人の前記一の主張に対し、二ケ月分の利息金一六、〇〇〇円を天引した点は認めると述べ証拠として、当審証人坂下幹子の証言および当審の被控訴人本人尋問の結果を援用した。

理由

成立に争のない甲第一号証の二、三、原審の被告坂下幹子本人尋問の結果により成立を認める甲第一号証の一と右本人尋問の結果、当審証人坂下幹子の証言、原審および当審の被控訴人本人尋問の結果を総合すると、被控訴人は、坂下幹子に対し、昭和三三年五月一二日金二〇〇、〇〇〇円を、弁済期同年七月一〇日、利息および期限後の損害金月四分の約定で貸与する契約をし、同時に控訴人は、坂下の右債務につき連帯保証をし、被控訴人は同日坂下に対し、同年七月一一日までの二ケ月分の利息金一六、〇〇〇円を天引きして金一八四、〇〇〇円を交付したこと(金一六、〇〇〇円を天引きしたことは当事者間に争がない)。右弁済期は、同年一〇月一〇日まで毎月一〇日ごとに一ケ月ずつ延期されたことが認められる。右認定に反する原審および当審の控訴人本人尋問の結果は採用しない。右事実によると、利息制限法第二条によつて、天引額一六、〇〇〇円が坂下の受領金額一八四、〇〇〇円に対する同法第一条所定の年一割八分の二ケ月分の金員五、五二〇円を超過する部分一〇、四八〇円は元本の支払に充てたものとみなされるから、残元金は、金一八九、五二〇円となるわけである。ところで、被控訴人は、昭和三三年一二月一〇日まで金二〇〇、〇〇〇円に対する月四分に相当する金員の支払を受けたと主張するが、前認定のとおり弁済期が一ケ月毎に延期された点と原審の被告坂下幹子本人尋問の結果を総合すると、右金員は金二〇〇、〇〇〇円に対する利息および損害金としてそれぞれ合意のうえ充当されたものと認められる。右認定に反する証拠はない。

ところで、右消費貸借の利息、損害金の約定利率は、利息制限法第一条第一項、第四条第一項に規定する利率を超えるので、超過する部分は同規定によつて無効であるわけである。しかし、その支払つた超過分の効果については、第一条第二項(損害金について同法第四条第二項により準用)との関連で説が分れているので、この点について考究する。右のとおり超過分は無効であるから、本来任意に超過分を支払つた場合の効果は、不当利得に関する民法第七〇三条、七〇五条、七〇八条によつて決すべきものであるが、そのいずれによるべきかは、旧利息制限法では、超過分は裁判上無効とすると規定されていたこととあいまつて、従来争の存したところであつた。それであるのに新しい利息制限法では、超過分は単に無効と定め、さらに第一条第二項に規定を定め、現に支払つた超過分の返還を請求することができない旨を定めているのであるから、右規定は、これら民法の不当利得に関する規定の特則として設けられたものであつて、債務者がその無効であることを知つていたと否とを問わず、また不法の原因が受益者についてのみ存すると否とを問わず、その返還を請求することができないものとして定められたものと解すべきである。この場合元本につき残額がある場合、超過分は元本に充当されるとの説があり、控訴代理人も主張するところであるが、このような結論は右の規定の解釈から当然に導き出されるものではなく、他に明文の規定もないのであるから、採らない。もつとも、同法第二条には、利息を天引きした場合、元本の支払に充てたものとみなす旨の規定があるが、右は旧利息制限法に利息の天引きの効果につき規定がなく、消費貸借の要物性との関連でその効果につき解釈上争があつたので、新しい利息制限法でその解釈を統一するため設けられたものであるから、これを類推することはできないし、かえつて、新法で第一条第二項の規定を新たに設けながら、超過分の元本充当につき規定を設けなかつたことからしても、右の説を採ることはできないものといわねばならない。また、超過分は、元本、利息、損害金、費用などにつき残債務あるときは、当事者が改めて弁済の充当を行い、当事者がこれをしないときは民法の規定に従つて法定充当を行うべきであるとの説がある。しかし、法定充当が行なわれる場合は、債務者が同種の債務を負担し、または、元本、利息、損害金、費用を負担する場合、そのいずれに弁済するか、当事者の指定がなされなかつた場合にされるのであるから、超過分の弁済として当事者が指定する以上、超過分が無効なものであつても、法定充当の余地はないわけである。さらに当事者が改めて弁済の充当をなし得るとすることも、超過分につき返還請求をすることをできないこととした規定の趣旨と矛盾するものであつて、採ることはできない。

このように解すると、債務者の保護を目的とする利息制限法の精神に反するとの批難があるかもしれないけれども、元来、利息制限法は、少くも債権者の側から、裁判又は強制執行によつて、国家権力を借りて強制的に高利を取り立てることを禁止するという限度で、経済的弱者である債務者の保護をすれば足りるものとするものと解すべきであるから、前記のように解することも、利息制限法の精神に反するものとはいえない。

以上によると、坂下は被控訴人に対し、なお金一八九、五二〇円とこれに対する昭和三三年一二月一一日から完済まで年三割八分の遅延損害金の支払義務があるから、控訴人は連帯保証人として、これが支払義務があるものといわねばならない。もつとも、坂下が被控訴人に支払つた昭和三三年一二月一〇日までの利息、損害金は、元金二〇〇、〇〇〇円に対するものであるから、利息天引きのため残元金とみなされた金一八九、五二〇円との差額一〇、四八〇円に対する昭和三三年七月一二日から同年一二月一〇日までの月四分の金員については、元本が存しないのであるから利息制限法第一条第二項の適用はなく、その効果はもつぱら民法の不当利得に関する規定によつて決すべきものであつて、これについての返還請求権の行使につき、何等の主張、立証がないから、この点については、特に判断はしない。

なお、控訴代理人は、本件消費貸借には損害金の約定がなかつたので、その利率は、利息についての約定利率月四分を利息についての利息制限法所定の制限利率年一割八分に引き直した率によるべきであると主張するけれども、本件消費貸借には、損害金についても、月四分の約定があつたことは、前記認定のとおりであるから、右主張は採用しない。

以上によると、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、金一八九、五二〇円とこれに対する昭和三三年一二月一一日から完済まで年三割六分の金員の支払を求める限度で正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。原審は右と一部認定を異にし、金一六八、七四五円とこれに対する昭和三三年一二月一一日から完済まで年三割六分の金員の支払を命ずるに過ぎないけれども、これに対し、被控訴人から不服の申立はないから、原判決を控訴人に不利益に変更することはできない。本件控訴は結局理由がない。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤規矩三 裁判官 石井義彦 裁判官 宮崎富哉)

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